この「まちめぐ!」はメールによる無料のミニコミ誌です。

街歩きメールマガジン「まちめぐ!」
(街めぐり人めぐり)
2015 新装刊 #002
神出鬼没の不定日配信
発行:チームまちめぐ!(吉村智樹 せろりあん)


ザクって普通免許で乗れるのか。


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まえがき
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「ご近所にも秘境あり。ご町内にも四次元あり」を合言葉に、すべての散歩愛好家に捧げる街歩きメールマガジン「まちめぐ!」。

僕は取材と撮影・執筆を担当しております放送作家の吉村智樹です。
どうぞよろしくお願いします。

新装第2号目となる今号は、奈良県からお届します。

ぼくは奈良県が大好きで、しょっちゅう訪れます。
テレビ番組の会議ではらわた煮えたぎることがあっても、その足で奈良へ出向くと、すーっと忘れられ、クソのようなもめごとなどどうでもよくなります。
色彩が淡い奈良の風景が心の傷を癒してくれるんですね。
ですので会議のあとはほぼ毎回、奈良へ行っています(やめてまえそんな仕事)。

それに意外に思われるかもしれませんが、奈良は実は珍スポット多発県。
しかもどれもこれも大仏級にインパクトBIG! GREAT! BOSS!
このまちめぐ!では今後も奈良の珍スポを頻繁に採りあげることになるでしょう。

今回はJR奈良駅から南へくだるルートを歩きました。

JR奈良駅から、「万葉まほろば線」の愛称で呼んでほしげな桜井線に乗ってわずかひとつ目の「京終」駅。
「きょうばて」と読みます。
平城京の東の果て(終て)に位置することからその名がついた、永い歴史を証した駅です。


奈良駅からわずかひとつ目なのにもう終点かよと勘違いしそうな難読駅名。

とはいえ、県名を冠した奈良駅からたったひとつ目で、もう無人駅。
僕はこの最果て感こそが奈良の魅力だと本気と書いてマジで思うのですが、これを言うと奈良の人たちからはバカにしてんのかと怒られます。

「京終」駅は一日の平均乗降者数が600人に満たないと聞く、瓦葺の小さな木造駅。


郷愁を誘うたたずまいの木造無人駅。
だが実はセンサーとカメラで駅員が遠隔対応するハイテク駅でもある。


改札口(と思わしき)鉄柵を抜けると、目の前には静かな住宅地が。
奈良ならではの妙味である、音も色も薄い、枯淡な「はて」の風景が広がっています。


かつて京終駅は荷物運搬専用列車の始発駅だったため、駅前にはシヴい倉庫が残っている。


これを見て思わず 「ハム!」と声をあげた五十歳。




草木が風に揺れて壁に描いた天然の枯山水。

国道169号線へと出て、帯解(おびとけ)→天理方面へと、さらに南へくだります。
ここもまた、枯れ果てた景色が続いていますね。
いまどこの街も商店街のシャッター通り化が深刻ですが、この国道沿いも閉店したまま次の借り手が見つからない物件が風雪にさらされ、じわじわと「はて」が追いついてきているようです。


どうやら店を運営する燃料も切れてしまったようです。


何度も夢に現れ、そのたびにうなされる、脳裏に焼きついたあの日の記憶、のような褪色警告看板。


店内では今日も「お好み喫茶とはなんぞや」というアツい議論が。


天理に着きました。
駅前には、けなげに奈良の平和を守り続ける昭和生まれのロボットが。
しかし平成男子たちは興味なさげ……。


奈良ってほんと、見るもの見るもの、シブいよなあ。

いまぼくが歩いている区間は春には花見の渋滞ができることもあるそうですが、シーズンオフとなる残りの三季は、ただ車が素通りをするだけの、主張しない静かな道。

ただ、一軒の店を除いて……。

このひなびた道沿いの景色を一閃する驚異の店とは、いったいどんなものでしょう。

では、さっそくまいりましょう。


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「人生一度きり 不可能をぶちのめせっ」
ロックンロールたこ焼きの店
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こ、この人は、この店は、いったい……。

のどかな風景が続く国道169号線を天理方面へ向かって歩いていると突如、得体のしれないパワーがみなぎる建物に出くわす。


淡い色あいが続く奈良の街に突如現れる赤い稲妻。


突然眼前に迫りくる謎の文字情報群にたじろぐばかり。

ベースとなっている色は、奈良ではまず見ることはないパッショネイトな赤。
そして大きく書きだされたキャッチコピーの数々が、どれひとつとして素通りを許さない。

「大丈夫です! おいしいふつうのたこ焼き店で〜す!」
「ROCK’N たこ焼き ROLL!」
「ヤンキー! ファンキー! 焼きそば」
「さぁ〜勇氣をもってお気軽にお入り下さい!」


たこ焼きのキャッチコピーで初めて見た「大丈夫です!」。


「ROCK’N ROLL!」って、なにが? たこ焼きが?

「たこ焼きよりうまい!」。
結局おすすめはどれなんだろう。


知らない人からいきなり「GOOD LUCK!」。

どうやらここ『フトマル』は、ひと目でそうは見えないが、たこ焼き屋さんのようだ。
しかし「ROCK’N ROLL!」と「たこ焼き」の関係は?
残念ながらぼくにはたこ焼きという食べ物にロックンなイメージがない。
焼く動作には、かすかにロール的な行動はあるけれど。

そしてなにより気になるのは、看板にBIGサイズで登場する、赤いジャケットを袖七分に着こなしリーゼントをキメた、完全無欠にロックンローラースタイルな、サムズアップポーズの謎メンの写真。
この方はいったい、どなた?

ぶっちゃけ「入りづらい……」と感じたが、飲食店のコピ―としてよそでは見たことがない「大丈夫です!」の言葉が、ぼくに「ドアを開けろ」と背中を押す。

おそるおそるなかへ入ると、おお(感嘆)。
そこもまた、たこ焼きの店の固定概念をくつがえす空間だった。


たこ焼き屋さんなのになぜかステージが。


摩天楼はタコ色に。


「人生一度きり 不可能をぶちのめせっ〜!」
店内にはいたるところに、たこ焼きなみにアツアツなメッセージが。


ステージがあり、壁にはまるで映画のラスト・シーンを思わせる摩天楼の写真が。
そして、外観だけではなく店内にも、ロックの初期衝動を感じずにはいられないパワフルな言葉たちが雨のハイウエイのごとく降りそそいでいた。
言わずもがなだが、この店は間違いなく、ただものではない。

そして、出会えた。
表の看板に大きく掲げられた、あでやかないでたちのあの人、ご本人に。
それは、自らたこ焼きを焼く『フトマル』オーナーシェフの中川太志さん。


表の看板のご本人が、こうしてたこ焼きをロックにロールしている。

「年齢は、自称26歳の46歳です。なんで26歳なのかですか? 6がふたつで『6ックン6ール!』という意味で」

なるほど! ならば自称26歳が実年齢にアップデートされるのは、どうやら66歳まで待たねばならないようだ。

ぼくはさっそく、いくつかのたこ焼きを注文した。
まずはオーソドックスなソース味の「ロックンたこ焼きロール」(6個360円)を。

すると中川さん、

「♪ロックンたこ焼きローオール〜 ソースカモンマヨネーズ ロックンたこ焼きローオール〜」

なんと、焼きたてを軽快な“テーマソング”つきで運んできてくれたではないか。

「開店当時から、商品それぞれにテーマソングをつけているんです。すでにやっていない商品の曲も合わせたら30はあるんじゃないかな。たとえばネギマ〜ヨ(ネギ盛りたこ焼き 6個380円)なら『♪頭よくなれ 頭よくなる ロックンネギマヨロール〜』というふうに。なかには冷奴で『♪やーっこー、ほーっとらんらんらん』なんて適当な替え歌もあります(笑)。なぜテーマソングをつけるのかですか? たこ焼き屋がお客さんと接することができるところって注文を訊くとき、運ぶとき、帰るときの3点しかないじゃないですか。その瞬間が、ぼくにとってはショータイムなんです。ただ焼いて、売って、それだけじゃ、さびしいじゃないですか」

中川さんにとって、たこ焼きを焼くこと、お客さんの元へ運ぶことは表現であり、ワン・ナイト・ショーだったのだ。
確かにアツアツのたこ焼きをはほはほ言いながら食べるときのあのライブ感は、ほかのフードでは味わえない。

では、いただきます。
ああ、これはうまい! 表面はからっとし、生地は柔らかいのにだらっと崩れず、皿というステージにしっかと立っているのが素晴らしい。
個人的には、本場と呼ばれる大阪のたこ焼きよりずっとおいしい。

「たこ焼きって簡単に作れそうで、実は難しいんですよ。よく街のかたすみにたこ焼き屋がオープンしても、3か月程度でつぶれるでしょう? あれは甘く考えて店を始めるからなんです。たこ焼きって、おいしくないと本当に誰も買わないんです。実はぼくも正直『たこ焼きくらいならやれるだろう』って軽い気持ちで始めようと思いました。でも、お客様からお金が取れる味には、なかなかならなかった。だから関西中の名店を食べ歩いて勉強しました。一か月以上、朝・昼・晩・夜中と、米の飯を絶ってずっとたこ焼きばかり食べました。しまいには、もういやで吐きたくなるほど。それに、たこ焼きってたとえ試作でもちょっとだけ焼くわけにはいかないんです。だから近所の人たちに味見をしてもらって。いろんな人たちを巻き込んで、やっと納得できる、冷めてもおいしい味にたどり着いたんです」

たこ焼きだけを一か月食べ続けるストイックな求道のすえに生まれたロックンたこ焼きロールは、開業から8年に渡りここ奈良の人々に愛され、アツい味のメッセージを送り続けている。


ネギ盛りだくさんたこ焼き「ネギマ〜ヨ」。
「♪頭よくなれ〜 頭よくなる〜 ロックンネギマヨロ〜ル〜」のテーマソング付き。


そして、さまざまな変わり種も、ここ『フトマル』の魅力だ。

ひとつは、むろんテーマソング付きの『あんかけブルース〜』(8個550円)。
フライしたたこ焼きに甘辛いあんをかけ、ネギと糸切り唐辛子をトッピングした、オトナの味。
れんげでいただくのがこれまた珍しく、楽しい。


かりっかりの生地にだしの味が絶妙なアツアツのあんがかかり、もうあんタッチャブルなおいしさ。

「これは、よそにはないと思います。単なる揚げたこ焼きじゃなく、冷えたたこ焼きを水に漬けて使うのがコツ。冷えたたこ焼きを熱した油に入れると、水分と油分が瞬時に入れ替わって、香ばしい食感になるんです。水に漬けたたこ焼きを油に入れて大丈夫かですか? もちろん揚げるときは危険です。バーンッ!と爆発音がするほど油が跳ねるし、命がけで作っています。そしてこれにかけるあんも特製で、試作を重ねました。やっとできたのは、あんだけだと辛すぎるくらいの味。でもこのピリッとしたあんじゃないとおいしくならないんです」

あんかけたこ焼きの「♪あんかけブルース〜」、これがまた抜群においしかった。
あんの甘みとピリ辛のせめぎあい、それが気合の入った熱いたこ焼きにまとわりつき、その食感は官能的ですらある。
コク深いうまさは、ビールだけではなく、ウイスキー・コークにも合いそうだ。


新作あんかけたこ焼き「あんかけブルース〜」(8個入り 550円)ももちろん中川さんの絶唱つきだ。



新曲「あんかけブルース〜」には途中、コーラスも入る構成。


夏期限定の「冷やしロックンたこ焼きカキ氷」も、よそではまず味わえない逸品。


たこ焼きにカキ氷。
そしてお手製のポン酢をかけて、クール酢にいただく。
情熱と冷静のあいだを交錯する未知の領域の美味。

では、いよいよもっとも知りたいことを訊こう。
そもそも、なぜ「ロックンロール」なのでしょうか。

「それはやっぱり、永ちゃん、矢沢永吉さんの影響ですね。小学生のときに『黒く塗りつぶせ』『鎖を引きちぎれ』を聴いて『なんていい曲なんだろう』と感動して、初めて矢沢さんの名を知ったんです。ぼくは『ザ・ベストテン』の世代で、それまでスターといえばジュリーや世良公則さんでした。ジュリーがパラシュートを背負って歌ったり、もう毎週テレビに釘付けですよ。そのザ・ベストテンのなかで、矢沢さんがランクインしたのに出演しなかったんです。ぼくはそれにビックリしてね。『歌番組に出たがらない歌手っているんだ!』って。ぼくはまだ子供でしたから、歌手はみんなテレビに出たい人たちだと思っていたんです。そうじゃなかったんですね。そしていっそう矢沢永吉さんに興味をいだきはじめた。先輩や友達の家へ遊びに行くと、お兄さんが矢沢永吉さんのアルバムを持っていたりする。ジャケットで星を吐きだしていて(4枚目のアルバム『ゴールドラッシュ』)それを見て『なんだこれは!』って驚いて。それからは、もう夢中ですよ。その憧れの想いが35年近く、今日まで変わらず続いているんです」

奈良県の生駒市出身の中川さんは、矢沢永吉に憧れる気持ちを胸に、14歳で上京。
オールディーズの演奏があるライブハウスに通うようになる。

「ぼくが矢沢さんを好きになったのはソロになってからなので、上の世代の方たちからよく『キャロル時代も知らないくせに永ちゃんを語るな』って怒られました。だから僕はそれからもちろんキャロルを聴き、矢沢さんのルーツであるビートルズも聴いたし、プレスリーやチャック・ベリーなどロックンロールが知りたくてライブハウスにも通いました。矢沢さんを通じてずいぶんたくさんの音楽に触れることができた。でもね、やっぱり最終的に“永ちゃん”に戻るんです」

学校を出たのち、中川さんは設営の仕事で全国を巡業する。
日本各地で働き、「北海道と青森、愛媛以外のすべての都道府県で働いた」ほど、トラヴェリンな日々を送った。
そして20代後半に独立し、看板屋さんをはじめることに。

実はこの看板屋さんは現在も継続しており、たこ焼き屋の開店時間までは、中川さんは看板職人として活動している。


奈良の街でよく見る看板も、実は中川さんの製作だったりする。

店外・店内のロックなスピリッツに溢れまくる看板や書き文字の数々は、すべて中川さんのお手製だというからおそれいる。
手描きの看板やプレートは常に入れ替えており、これまで人目に触れたものは「何百種類とある」のだそう(全部見たい!)。

「看板屋の開業当時はITバブルで、携帯電話のショップが街に次々とオープンし、仕事がひっきりなしに来ました。従業員も雇い、看板を製作する収入だけで自家用車が6台も持てたほど。でも看板の仕事は景気に左右されるんです。将来、看板だけでやっていくのは難しいだろうと思い、それで、『もうひとつ仕事を持とう』と考えました。それが、たこ焼きだったんです。しかも“日本で一番元気なたこ焼き屋”に。味の1位は無理でも、元気さならナンバー1になれるんじゃないかと。ロックとたこ焼きを組み合わせるコンセプトも、髪をリーゼントにし、赤いスーツを着てたこ焼きを焼くアイデアも開業前からすでに考えていました」

そんな『フトマル』には、幼い頃からいつもそばにあったロックへ愛がほとばしっている。
なによりそれを表しているのが、まず普通のたこ焼き屋にはない「ステージ」だ。

「ぼくはフトマルズというバンドを組んで、ロックンロールを歌っています。『人生一度きり 不可能ぶちのめせーッ!』という想いを伝えたくて。バンドメンバーは学校の先生 公務員、昆布屋の社長など職業はばらばら。みんな最初はお客さんだったんですよ。そもそも店でライブができるようにしたかったけれど、知識も予算もなかった。すると大工さんや電気が得意なお客さんが手伝ってくれた。『たこ焼きって、魂をこめて焼くと、こんなに人をつないでくれるのか』と思いましたね」

このステージではお客さんが弾き語りをし、ジャグラーやマジシャンが腕前を披露し、テレビ番組の収録が行われるなど、ライブハウスが少ない奈良で人々が才能を披露できる重要かつ貴重な場となっている。


このステージで、自らのバンドを率いて演奏することもある。


このステージはお客さんたちの表現の場所にもなっている。
この日はジャグラーの青年がワザを披露していた。


海なし県の奈良でも海を感じてもらおうと、夏は店頭に海の家を設ける。


冬は冬でロックンロールな雪だるまがお出迎え。

『フトマル』は、いつ行っても、新商品や企画、ディスプレイなど、どこかが必ず変わっている。
それは中川さんが挑戦者だからだろう。
海外レコーディングを先駆けた矢沢永吉のように。
そして、中川さんがいま新たに挑んでいるのが、牛スジカレーだ。

「ガス代が『いったいいくらになるんだろう』と心配になるほど、すじ肉を長時間とろっとろになるまで煮込んでいます。タマネギも、気が遠くなるほど炒めています。このカレーライスで全国展開することが次の目標なんです。よろしくワッケンロール!」


この秋からのニューカマーは高級食材を惜しげもなく使った牛スジカレーライス。


「フトマル牛スジカレー」(650円)
”ロックなたこ焼き屋のカレー”の矜持がツイストしたタコ足ウインナ−に表れている。


「京都から来られたんですか? いつか京都でもこのカレーを食べていただけますよ」と全国展開の夢を語る中川さんの表情はチャレンジする喜びに溢れていた。

『フトマル』のフードの味はどれもとてもおいしいうえに、食べる者に挑んでくるのを感じる。
食べる者に「アー・ユー・ハッピー?」と問うてくる、そんな味なのだ。


店の外に出ると、燃えるように見事な夕陽が広がるマジックアワー。
肌寒い季節になったが、身体はほてりを感じ、タオルを首からかけたいほど。
きっとたこ焼きに込められた熱いロックスピリッツを胃袋で受け取ったからだろう。

店名●フトマル
住所●奈良県奈良市横井1丁目711-12
アクセス●国道169線(ひゃっく ロックGO!線)
電話●0742‐87‐0776
営業時間●月曜日〜金曜日 16:00〜22:00
       土曜日&日曜日 11:00〜20:00
定休日●木
URL● http://ameblo.jp/futo-maru/


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編集後奇
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新装開店の街歩きメールマガジン「まちめぐ!」リニューアル第2号、いかがでしたか。

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さて、リニューアル第2号は奈良県からお届けいたしました。

奈良といえば、残念ながら2011年に閉店してしまった、忘れられない一軒のお店があります。
それが、なまめかしい名の『エナメル卿(きょう)』。

エナメル卿は、現在は同じ奈良の生駒市でモダン着物の着付けをされているヒメノルミさん(現在産休中)が、かつて営まれていた“和カフェ”。
カフェであり、かつアンティーク着物やヴィンテージな和小物の販売とレンタルをしており、さらに着付けまでほどこしてくれるという、女性がひとときの秘めたる非日常を楽しめる空間でした。

いまでこそ和カフェは情報誌のカフェ特集には必ず顔を出す定番コンテンツですが、当時、ここはハシリだったんじゃないかな。
いや、ここほど強い美意識をたたえた和カフェは、いまなおそうそうはないかも。
なんせカフェならではの「ゆるふわ」な雰囲気は、この店にはありませんでしたから。
ピンと張り詰めた、「おしゃれとともに堕ちてゆく覚悟」を問われるほどの、鋭いメッセージ性がここにはありました……。

エナメル卿を訪れたのは5年前。
近鉄奈良駅前の喧騒から離れて西へ西へとしばらく歩くと、「下御門(しもみかど)商店街」が現れます。
古民家が集まり、現在は「ならまち」と呼ばれて再評価され人気のお散歩スポットとなった旧市街の少し手前。
それはもう地味ぃな、静かぁな、人通りのまばらなアーケード商店街。

このしめやかなムードの商店街に、さらにひっそりとした外観で、ともすれば通り過ぎてしまうレトロ建物の2階。
しかし、階段をあがると、そこは息をのむようなデカダンな世界が。


扇情的なカラーリングのアンティークモダン着物に黒いエナメルの靴という凶暴ないでたちのカリスマ着付師、ヒメノルミさん。


スタンダール?
赤と黒のチェッカーなカーペットが印象的。



ムーディーな照明インテリアもひとつとして見逃せない。

赤と黒の市松模様のカーペット。
妖艶なミラーボール。
目を見張るほど大きなコーナータイプのソファ。
壁一面に埋め込まれた銀の鳥のレリーフ。
上品と下品、気品と悪趣味が交錯する耽美で頽廃的な世界。
出迎えてくれたヒメノルミさんがこれまた、着物に黒のエナメル靴という不条理なコーディネート。

訊けば、ここは昭和のダンスホールだった物件。
永く放置され、市松模様のカーペットも、壁に埋め込まれたシュールな銀色のレリーフも、当時のまま奇跡的に残っていたのだとか。
さらに「建物は戦中のもので、軍の物資倉庫だったそうですよ」。

軍の!
奈良の、しかも商店街のなかに第二次世界大戦ゆかりの建物があったなんて、ぜんぜん知りませんでした。


かつてはダンスホール、さらにさかのぼれば日本軍の物資倉庫だったという背徳の空間。
壁の銀のレリーフはダンスホール当時のまま。


そもそも奈良が昭和という視点から語られることって、ほとんどないですよね。
平城京への遷都から数えて1300年+5年もの途方もない深奥な歴史を抱く、鹿と古墳の街、奈良。
東大寺や春日大社など多くの世界遺産をゆうする古都ゆえ、感覚的には昭和なんて数分前の出来事なのかも。
でも昭和の奈良が遺したものにも、そして平成の奈良にも、よくよく見ると飛鳥時代の寺社仏閣に負けじと劣らぬまほろばな文化財がそこかしこに薄目を開けて眠っている。

もしもこのメルマガに使命があるとする奈良ば、そういった近過去すぎて見落とされる物件を発掘し、おせっかいながら「お世っ界遺産」として記事にしてゆくことも、あるのかもなと思っております。

次回はいったいどんな街を訪れるでしょう。
いつとは約束できませんが、できるだけ早くお届けしたいと思います。
お楽しみに。

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